まだ高校生だったころ、国語の授業で、芥川龍之介の『
羅生門』を読んだ。その授業の課題がおもしろい。
羅生門は、老婆と下人の話。
ラストシーンは、下人が老婆の服をはぎ、夜の闇に消えていく。そして「下人の行方は、誰も知らない」――
課題とは、「この後、下人がどうなったか物語を続けなさい」というものだった。
物語の後日譚を想像するのは、著者の土俵で相撲ができる。まんざらでもない。
芥川龍之介にも、後日譚を扱った小説がある。それが『猿蟹合戦』だ。
誰もがよく知る「蟹が猿を退治する物語」のあと、蟹がどうなったのか? これがなかなかえぐい。
蟹の握り飯を奪った猿は、最後には蟹によって戒められる。どすんと落ちてきた臼の下敷きになった猿が死に、ハッピーエンド・・・とは習いある話。
ところが、蟹は猿を殺したために警察に捕まり、裁判の結果、死刑になる。
「蟹の猿を殺したのは私憤の結果に外ならない。しかもその私憤たるや、己の無知と軽卒とから猿に利益を占められたのを忌々しがっただけではないか?」
・・・えぐい。
さらに、蟹の家庭はどうなったか? 曰く「蟹の妻は売笑婦(売春婦のこと)になった」。なんともしゃれにならない。
そして話はこう終わる。
「とにかく猿と戦ったが最後、蟹は必ず天下のために殺されることだけは事実である。語を天下の読書に寄す。君たちも大抵蟹なんですよ」
僕らも蟹なのか。世の中は世知辛い。。。
蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)
芥川 龍之介